『 春想逢日 』


冷たく刺すような風から、
温かく柔らかな風が吹き、
眠りについていた花達が目を醒まし
小さな若葉や花びらを開き、
赤や白の色や匂いがいっそう温かさを感じる時、

大きな建物の中では、送りの言葉が響いていた。

乱れも無く真っ直ぐに並んだ椅子に座り、
マイクを通し聞こえてくる声に、
時折鼻を啜る音が聞こえる以外は誰もが無言で耳を傾けていた。

校長、来賓からの祝いの言葉を頂き、
式のメインである卒業証書授与が行われ、
担任から名前を呼ばれると席を立ち、
校長の元へと向かい証書を受け取る。

在校生の啜り泣く声が聞こえる中、
ゆっくりと時間をかけ進んでいく。


「秩序を忘れずに」

生徒会長として生徒の上に立ってきた手塚の言葉に従い、
名を叫んだり、取り乱すといった事も無く
静かに進むが、テニス部員だった者の名が読み上げられれば
泣き声を押さえる声は大きくなった。

啜り泣く声が聞こえる中、一番後ろの席で真っ直ぐと見つめていると

『不二 周助』

マイク越しに聞こえる声に階段を上り、
校長の前に立つ姿を見入った。

ゆっくりと歩く姿
体の動きに合わせゆれる茶色い髪

一礼する姿に緊張感を感じる事は無かった。

だからと言って堂々としている訳でもなく、
自分の速さで歩いて行く。

話をしているのか頷く姿が見えるが、
直ぐに証書に受け取り、沸きに挟むとステージを下り

体育館を半周し証書を置き、自分の席へと着いた。

スピーカーから流れる言葉に耳を傾け、
証書の授与の終了を告げられ、
在校生の答辞終わり、
卒業生代表として立っている手塚の声に意識を戻す。

いつの間に・・・

意識を戻し、上段に立っている手塚の言葉に
集中して聞くものの思い出される不二の姿

いつものように微笑んでいるが、
どこか寂しそうに見えた。

3年間過した学校、
長い時間過し思いでも多いテニス部

別れるのが寂しいのかもしれない・・・

自分の中で答えを出し、納得する。

時と同じく手塚の言葉も終わり、校歌を合唱し、

司会を務める教頭の閉会の言葉に、
続き卒業生退場の言葉がかかる。

拍手で送くる為、手を叩き歩いていく卒業生を見ていると
テニス部メンバー全員と視線があった。

微笑んだり、小さく手を振ってくれたり、
大きく手を振ってくれたり、かわらぬ表情だったり・・・

性格を現した反応に、表立っての事で返さず
拍手の中に気持ちを込め、見送る。

新たな門出を祝して・・・

卒業生が居なくなれば、通常に戻り
在校生の代表者は後片付けにかかった。

外では卒業生の見送りや記念写真を撮ったりして
賑わいを見せているのだが、代表者なっているので黙々と椅子を片付ける。

皆、早く帰りたいのか手早く片付けたおかげで、

予想より早く終わり帰宅を許され校舎を出ると静まり返ったグラウンドに
傾きかけた太陽と少し冷たい風が吹いていた。

風の冷たさに身を固め、早足で校門を出て家へ急ぐ。

毎日使っている通学路

見慣れている風景を見ながら足早に進み
子供のはしゃぐ声が聞こえる公園に差し掛かると、
コンクリートで作られた小さな門に寄りかかっている人が目に入る。

黒い学生服に茶色い髪
優しそうに微笑む表情
立っている人が自分の知り合いだと解ると小走りで近寄った。

「不二先輩」

名前を呼びながら近寄れば、右手を上げ

「後片付け、お疲れ様」

柔らかそうに微笑み返す。

テニス部は河村先輩の家に卒業パーティーをしているはずでは?

思わず言葉にしかけるが声には出さず、
不二を見上げていると、

「時間は大丈夫?」

変わらぬ表情で聞かれ、

「大丈夫です」

頷き言葉を返すと、
手招きをされ公園内へ入って行った。

1歩後を歩き、不二の後を付いて行くと
大きくない公園の内にある背の高い木に辿り着くと
座る様に促され、いつもの様に腰を下ろした。

「あ、そうだ・・・はい・・」

制服のポケットから差し出すも、
不思議そうに見つめられ、

「缶ジュースですか?」

問われる言葉に

「一緒に飲もうと思って買っておいたんだ」

お茶だけど大丈夫かなぁ?

差し出され、不思議そうに傾げていた顔を下げ

「大丈夫です。
 有り難うございます」

差し出されるままに受け取り、
隣に腰を下ろしかけるのを見終わると視線を空に移す。

夕暮れへと変わる空を見上げる。

茜色から藍色へと変化しかけている空を、
お互い口を開く事無く見続けた。

藍色から、1番星が光る頃

「始めて話した時と同じだね」

お互いの声は無く心地よいと感じる空気の中、
紡がれた言葉に頷く。

「あの時は、寝転がって見たんだよね」

続く不二の言葉にも同様に頷き返す。

「英二達にお互いの関係を聞かれて、
 2人して宝モノの様な関係て答えて・・・」

空から動か無い視線、紡がれる言葉は思い出。

「一緒に出かけもしたし、試合を見に来てくれた」

藍色から紺色へと変わり、
次第に漆黒い代わりだす空を見ながら、
不二の言葉に耳を傾ける。

「ありがとう」

いきなりの言葉に、空から不二へと視線を移すと、
微笑んだ表情が見えた。

「あの・・・」

戸惑いを見せる言葉と表情に、

「色々な事を教えて貰ったからね。
 そのお礼なんだ」

ゆっくりと柔らかい声に、戸惑いを消すと
不二と同じ様な声で

「卒業、おめでとうございます」

微笑みながら不二に祝いの言葉を言えば
先程同様、礼を言われる。

新学期からは互い合う事の無い日が始まる。

校舎が違うだけではなく学生を示す名称も変わる・・・

でも、変わらない日々

「不二先輩はテニスを続けるんですね・・・」

祝いの言葉と礼を言った後から、

沈黙になり街頭の光が光り出す頃
考えていた事を口に出してしまったのか、
脈絡のない言葉にも

「うん、そうなるかな」

驚く事無く言葉を返してくれる。

「頑張って下さい」

自分なりの応援をすれば頷いてくれる。

変わるコトもあれば変わらないコトもある・・・

この宝モノの様な関係はどっちなんだろう・・・・

変わって欲しい?
変わって欲しくない?

答えが出せない・・・

「そろそろ、帰らないとダメだね」

寂しそうに聞こえた言葉に、頷き、
立ち上がるとスカートに付いた砂埃を払い、
並んで歩き出す。

他愛の無い話

可笑しかったり、考えたり、
いつもなら長く感じる通学路も話をしていれば

アッと言う間に家に着いてしまう。

「有り難うございます」

深々と頭を下げると

「気にしないで、
 僕が勝手にした事だけだから」

深く頭を下げられた事に苦笑するも、
門前で何時までも話しているわけにも行かず、
別れの言葉が自然と出てくる。

「僕はこれで・・・」

下げた頭を上げ見上げれば、

「またね」

手を上げ、言葉を言うと

「はい」

頷き返事を返した。

いつもと同じ別れの言葉に、同じ返事を返す。
変わらない返事は、日々の変わる事の中でも
変わる事の無いモノなのだと知った。



                                                       2007 4 19